まず、社長個人が関わる資産と負債を明らかにしましょう。
多くの中小企業では、会社の資産・負債と、社長個人の資産・負債の区別があいまいになっています。
社長の資産・負債が親族に引き継がれ、その親族が事業を承継する場合はあまり問題はありません(問題がなくはないのですが、承継は比較的スムーズに進みます)。
ところが、いわば赤の他人である従業員に事業を承継する場合、どの資産・負債が会社のもので、どれが社長個人のものかが、大きな問題となります。
ここではまず、この「資産・負債」を明らかにするステップについて説明します。
一般的な事業承継マニュアル等は「会社の資産・債務を洗い出しましょう」といった記述にとどまる場合が多いですが、できれば、業界に詳しく、中小企業の財務デューデリジェンス経験(企業再生などを含む)が豊富で、社長の耳に痛い指摘も辞さない専門家(税理士、公認会計士など)に依頼することをお勧めします。 ちなみに、この「デューデリジェンス(調査)」は、親族内承継の際にも有効です。
この段階で、資産や負債の全てが一覧できるようになるだけでなく、以下のような実態が明らかになります。
- 資産の実態~資産の不良化・毀損はないか、どの資産が会社所有でどの資産が個人所有か、事業に必要な資産のうち個人所有のものは何か、など
- 負債の実態~どのような債権者に対して負債があるか、社長や役員などに対する負債、社長の個人保証や担保提供はどうなっているか、など
- 株式の実態~正確な株式の保有者と保有割合はどうなっているか、議決権制限株式などの種類株式はあるか、従業員が株式を買い取る場合いくらかかるか、など
会社のオーナーでもある社長から、親族以外の従業員へ事業承継を行う場合、特定の従業員(次期社長候補)ありきで話が始まる場合が多く見られます。 実際には、ここで示した「社長個人の資産と負債の洗い出し」、および後程説明する「従業員の資質の見極め」「企業文化の承継」を踏まえて進めることが、承継の成否を左右すると言えます。